2026年3月末に運営本部がわずか5,805万円で売却された鰻フランチャイズチェーン「鰻の成瀬」は、その後の2か月で新たな局面に入りました。結論から整理すると、現在の鰻の成瀬は「株式譲渡を巡る法廷闘争」「店舗数の継続的な縮小」「AI・DXを軸とした再建策の始動」という3つの動きが同時並行で進んでいます。
UnagiPressでは2026年5月15日に「鰻の成瀬」本部売却劇の全真相を公開しました。本記事はその続報として、売却発表後の4月から6月初旬までに明らかになった事実を時系列で整理し、鰻飲食店のオーナー・店長が自店の経営判断に活かせる視点を解説します。短期間で状況が動いているテーマのため、本記事は2026年6月2日時点で確認できた情報に基づいて構成しています。
売却後2か月で何が変わったのか(先に結論)
前回記事の時点で確定していたのは「フランチャイズビジネスインキュベーション株式会社(FBI社)の株式58%を、AIフュージョンキャピタルグループ(東証グロース・証券コード254A)が5,805万円で取得し連結子会社化する」という事実でした。
そこから6月初旬までに、次の3点が新たに加わりました。
| 論点 | 前回記事(5月15日)時点 | 本記事(6月2日)時点の続報 |
|---|---|---|
| 株式譲渡の状況 | 58%取得を発表 | 譲渡を巡り東京地裁が仮処分を決定、買収側が取得を強行、損害賠償請求に発展 |
| 店舗数 | 約270店舗(3月末) | 公式サイト掲載で246店舗まで減少(出店と閉店が同時進行) |
| 再建の動き | 方針表明のみ | AI・DX活用の再建策が始動、月次集客企画「土曜の丑の日」を6月開始 |
つまり、本部売却は「ゴール」ではなく、経営権を巡る紛争と現場の立て直しが同時に走り出す「スタート」だったといえます。順に見ていきます。
株式譲渡を巡る法廷闘争の経緯
今回の続報で最も重い動きが、株式譲渡の有効性そのものを巡る法的な対立です。経緯を時系列で整理します。
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 2026年3月31日 | AIフュージョンキャピタルグループがFBI社株式58%の取得を発表(取得価額5,805万円) |
| 2026年4月1日 | FBI社株式の10%を保有するN&S Partners(NSP社)が東京地裁に株式譲渡禁止の仮処分を申し立て |
| 2026年4月10日 | 東京地裁が株式譲渡禁止の仮処分を決定。同日、買収側は「仮処分の効力は第三者に及ばない」として株式取得を実行 |
| 2026年5月28日 | NSP社がFBI社代表者およびAIフュージョン側に対し損害賠償請求を提起 |
NSP社の主張の核心は、株主間で交わされた契約に明示された株式譲渡禁止条項に違反している、という点にあります。これに対して買収側は、裁判所が出した仮処分の効力は売買の当事者でない第三者にまで及ばないとの立場をとり、仮処分決定が出た当日に株式取得を完了させました。
司法判断と買収実務が真っ向から対立する異例の展開となり、5月28日にはNSP社が損害賠償請求に踏み切っています。経営権の所在が法的に完全には確定しきっていない状態で、新体制が立て直しを進めているのが現在の構図です。
加盟店オーナーの立場から見ると、これは無視できない論点です。ロイヤルティや加盟金の支払い先、メニューや仕入れの方針を最終的に決める主体が誰になるのか、その前提が法廷の判断に左右されうる状況だからです。フランチャイズに加盟する際、本部の財務だけでなく株主構成や資本政策まで確認すべきだという教訓を、この一件は改めて突きつけています。
店舗数は246店へ—縮小と出店が同時に進む
店舗数の縮小は売却後も続いています。ピーク時には約380〜390店に達したとされる店舗網は、3月末時点で約270店舗、そして6月初旬には公式サイト掲載ベースで246店舗まで減りました。前回記事から1か月半ほどで、さらに二十数店舗が姿を消した計算になります。
注目すべきは、縮小局面のなかでも新規出店が並行している点です。2026年5月1日には札幌の中心市街地に「鰻の成瀬 札幌ココノススキノ店」がオープンしました。不採算店を閉め(スクラップ)、立地条件の良い店舗を残す・新たに開く(ビルド)という、いわゆるスクラップ・アンド・ビルドの再構築が進んでいると読み取れます。
ここで鰻飲食店オーナーが押さえておきたいのは、店舗数という指標の見方です。チェーン全体の店舗数が減っていても、個々の店舗の収益性が改善するなら、それは健全化のプロセスでもあります。逆に、店舗数だけを成長指標として追い続けたことが、鰻の成瀬の急拡大と反動を生んだ一因でした。自店の経営においても、「店を増やすこと」と「一店あたりの利益を厚くすること」は別物として切り分けて考える必要があります。
数字で見る「薄利多売モデル」の損益構造
なぜ急拡大したチェーンが短期間で大量閉店に追い込まれたのか。低価格・薄利多売モデルの損益を、わかりやすい想定数値で再現してみます。
ある加盟店が、客単価1,600円、1日の来客60人、月25日営業だったとします。月商は次の通りです。
- 1,600円 × 60人 × 25日 = 月商240万円
ここから原価率を考えます。稚魚(シラスウナギ)の不漁が続き、ニホンウナギ(アンギラ・ジャポニカ)の卸値が高止まりするなかで、低価格を維持すると原価率は45%前後まで上昇します。
- 原材料費:240万円 × 45% = 108万円
- 人件費:60万円(標準化オペレーションでも一定数は必要)
- 家賃:25万円
- 水道光熱費・その他:25万円
- 合計コスト:218万円
- 営業利益:240万円 − 218万円 = 22万円(営業利益率9.2%)
一見、黒字です。しかし鰻の卸値がさらに10%上がるだけで原材料費は約11万円増え、営業利益は11万円まで圧縮されます。来客が1日5人減れば月商は20万円落ち、容易に赤字へ転落します。低価格を看板にした業態は、仕入れ価格の変動と集客のわずかな揺らぎに対する耐性が極端に低い—この構造が、鰻の成瀬の現場で起きた事態の背景にあります。
AI・DXによる再建策と「土曜の丑の日」
買収側のAIフュージョンキャピタルグループは、AI・DXを活用した企業再生を得意とする投資グループです。鰻の成瀬の再建策として、AIによる顧客データ分析、顧客ニーズの把握精度の向上、出店効率と収益性の改善を掲げています。職人の技術に頼らず標準化で広げた業態を、今度はデータの力で立て直そうという方向性です。
現場レベルの集客施策も動き始めました。鰻の成瀬は2026年6月より、毎月最後の土曜日を「土曜の丑の日」と位置づけ、全国店舗で月次の集客企画として実施すると発表しています。土用の丑の日が年に数回しかないのに対し、「毎月の集客の山」を人工的に作り出す狙いです。これに先立つ春の土用の期間には、総額2,000万円規模の山分けキャンペーンも展開されました。
この「土曜の丑の日」という発想自体は、独立系の鰻店にとっても学びがあります。鰻は本来「ハレ(特別な日)の食材」であり、来店動機が年中行事に偏りがちです。だからこそ、月に一度でも「今日は鰻を食べる日」という来店理由を能動的に設計することは、客足の谷を埋める有効な打ち手になりえます。チェーンの大規模販促をそのまま真似る必要はありませんが、「来店動機を自分でつくる」という考え方は、規模を問わず応用できます。
鰻FCと屋台うなぎVCを比較する
今回の一連の動きは、フランチャイズ(FC)という仕組みそのもののリスクを浮き彫りにしました。本部の経営や資本政策が揺らいだとき、加盟店はその影響を直接受けます。屋号もメニューも本部に握られているため、自力での軌道修正が効きにくいのです。
ここで、鰻飲食店オーナーが取りうる選択肢として、ボランタリーチェーン(VC)「屋台うなぎ」との違いを整理します。
| 比較軸 | 鰻FC(一般的) | 屋台うなぎVC(ボランタリーチェーン) |
|---|---|---|
| 加盟金 | 100〜500万円 | 開業支援費用30万円 |
| ロイヤリティ | 売上の3〜8% | 不要 |
| 屋号・メニュー | 統一必須 | 自由(自店の看板を維持) |
| 仕入れ先 | 本部指定(全食材) | 鰻は共同仕入れ必須・他食材は自由 |
| 情報共有 | 本部からの一方向 | 加盟店間の双方向 |
| 本部の経営リスク | 加盟店が直接影響を受ける | 自店経営の独立性を保てる |
VCの共同仕入れは、対象が鰻(うなぎ)のみに限られます。加盟店は鰻の仕入れをVCの共同調達ルートに乗せることで、個人店では不可能な大口価格・安定供給・品質保証を得られます。一方、米・タレ材料・酒類・副菜・什器・包材などの他の食材や資材は、各店舗が地場の取引先と自由に取引を続けられます。「鰻の調達力は大手チェーン並み、それ以外は自由に組める」という、FCにもアウトサイダーにもない独自のポジションが成立するわけです。
鰻の成瀬の事例が示したのは、「本部にすべてを委ねる構造」の脆さでした。自店の看板と自由度を守りながら、最も価格変動リスクの大きい鰻の調達力だけを共同化する—この折衷点に、個人店の現実的な生存戦略があります。
よくある質問(Q&A)
Q1. 鰻の成瀬は今後どうなりますか?
2026年6月時点では、AI・DXを活用した再建策が始動し、不採算店の整理と優良店の維持・出店を同時に進めています。一方で株式譲渡を巡る法的紛争が続いており、経営権の所在が完全には確定していません。再建の成否は、この紛争の決着と、縮小後の各店舗の収益性回復にかかっています。業界内では100〜150店舗規模で落ち着くという見方も出ています。
Q2. 加盟しているFCの本部が売却されたら、加盟店はどうすればよいですか?
まず締結している加盟契約書を確認し、本部の経営主体が変わった場合の取り扱い(契約の承継、解約条件、違約金など)を把握してください。そのうえで、ロイヤルティや仕入れの支払い先、サポート体制がどう変わるかを書面で確認します。判断に迷う場合は、弁護士・公認会計士・中小企業診断士などの専門家に早めに相談することをおすすめします。
Q3. 個人の鰻店が、チェーンの低価格に対抗するには?
価格で正面から競うのは得策ではありません。鰻が持つ「ハレの食材」としての価値を活かし、職人の技術・産地へのこだわり・空間・接客といった、価格で比較されない強みを磨くことが基本戦略です。そのうえで、最も変動リスクの大きい鰻の仕入れだけを共同化してコスト競争力を確保すれば、「品質は専門店・調達力は大手並み」という両立が可能になります。
Q4. 「土曜の丑の日」のような企画は個人店でも真似できますか?
規模は違っても考え方は応用できます。月に一度「鰻の日」を設けて予約特典をつける、季節の限定メニューを用意するなど、年中行事に依存しない来店動機を自分で設計するだけでも、客足の谷を埋める効果が期待できます。重要なのは「いつ来てもよい」ではなく「今日来る理由」を提示することです。
業界の変化を「知る」だけでは、生き残れません
鰻業界は今、複数の構造変化が同時進行しています。養殖技術の進化・フランチャイズの台頭・インバウンド需要の増加・後継者問題——これらの変化を「情報として知っている」個人店オーナーと、「実際に動いて先乗りしている」オーナーの間には、数年後に大きな差が生まれます。
VC(ボランタリーチェーン)は、加盟店が集合知として情報を共有し、個人店では得られない業界の一次情報・先行事例・防衛戦略を共有する生存共同体です。大手FCのように自由度を奪われることなく、情報とノウハウだけをシェアできる仕組みです。
まとめ:一歩を踏み出すために
ノウハウを理解することと、それを自店で実際に形にして利益を出すことの間には、大きな壁があります。ウナギプレスでは、あなたの今の店舗状況に合わせた「本格鰻メニュー導入 無料オンライン経営相談」を個別に実施しています。最短ルートで鰻ビジネスの強みを取り入れたい方は、まずは気軽にお話してみませんか?
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参考情報:
- AIフュージョンキャピタルグループ公式リリース(2026年3月31日)
- 日本経済新聞「鰻の成瀬運営会社、AIフュージョンキャピタルが子会社化」
- 東京商工リサーチ「『鰻の成瀬』、株式譲渡を巡り対立が表面化〜仮処分決定と株主間契約〜」
- ITmedia ビジネスオンライン「なぜ『鰻の成瀬』は失速したのか 400店→270店、再建のカギはAIか職人か」
- 鰻の成瀬 公式サイト(店舗一覧・お知らせ)

